DIP(障害受容講座) > 6回シリーズのDIPを実施

■ DIP(障害受容講座)開発までの経緯

1997年に立ち上げたフットルースが掲げた目標は、「障害のある者とない者の対等な関係づくり」です。そのための具体的な手段として、1997年から2006年まで、アメリカのオレゴン州ユージーンの障害者団体モビリティ・インターナショナル・USA(MIUSA)とのあいだで、毎年、東京とユージーンで交換プログラムを行ってきました。プログラムでは、障害の種別を越える「クロス・ディサビリティ」を基調として、セミナーと野外活動を組み合わせ、障害のある者とない者、あるいは自分とは別の障害のある人同士が、障害のことも含めて、お互いに知り合うことを目的としました。このような経験からフットルースは、障害のある者とない者が同じ場を対等に共有するノウハウを蓄積してきました。

2006年、東京での交換プログラムで、「障害者雇用」をテーマにしたシンポジウムを行いました。そのときのパネラーの一人だったUBS証券のダイバーシティ部門の責任者の発言から、ダイバーシティ(人種や社会経済的な多様性とその許容)という考え方には「障害」も含まれることを知りました。 これを契機に、2007年秋には、数名のスタッフがカリフォルニア州バークレーの自立生活センターで、DIP研修を受講し、また「ウインドミルズ」というタイトルで、20年あまりの歳月をかけて積み上げられてきたアメリカのDisability Inclusion Programの内容も参考に、日本版DIP(Disability Inclusion Program/「障害受容講座」)の開発に着手しました。

■ DIP(障害受容講座)とは

開発の過程で心がけたのは、これまでフットルースが培ってきたノウハウを体系化するとともに、どうすれば「障害」を一つの「生きる条件」とみなせるようになるか、ということでした。そこから考えると、基本となるのは、障害を「知ること」です。「知る」ことで、私たちは想像力を働かせるスイッチを手に入れられるのではないでしょうか。

私たちの行うDIP(障害受容講座)は、障害当事者が講師となるプログラムです。そして座学ではなく、講師と参加者がコミュニケーションをとりながら進めてゆくワークショップ形式です。

基本となる2時間の構成は、以下のようになっています。

 *障害あるいは障害者と言う言葉に対するイメージの問いかけ
 *障害別のデモンストレーションと実習
 *参加型の「想像してみよう」
 *それを踏まえてのグループ・ディスカッション
 *グループ・ディスカッションの発表
 *質疑応答、まとめ

■ 企業とのパートナーシップ

2008年、私たちはUBS証券で複数回、DIPを実施しました。私たちは、企業という障害者とは無縁の場所と考えられてきた場に身をおいている参加者の「障害や障害者」に対するイメージをすべて肯定するところから始めました。この負のイメージに対する共感は、障害のある者とない者がお互いに心を開く上で、大切な要素だと言えます。プログラムが進むうちに、そのイメージがそれまでとは違ってくるように、プログラムを組んでいました。UBS証券で実施したDIPは好評でした。後に、UBS証券は障害者の法定雇用率を達成したという、うれしいニュースも聞きました。

2009年、2010年に取り組んだのは、アクサ生命でのDIPの実施です。アクサ生命には聴覚や視覚に障害ある社員の方たちがいました。フットルースとして何回かDIPを実施した後、聴覚障害と視覚障害の部分の講師をアクサの聴こえない社員、あるいは視えない社員の方たちに担当していただくようにして、障害のある社員の方たちにDIP講師というバトンを手渡していったのです。彼らは主体的に内容をきめ、プレゼンの方法を考えていきました。このことは同じ職場で働く障害のある人が、障害のない人たちに自分と自分の障害を伝える機会になり、企業内啓発の取り組みになりました。

そして、アクサ生命でも2010年10月障害者雇用率を達成したそうです。

■ 参加者の感想

・ 障害者の方から直接お話が聞けてよかった。また、障害者に対する見方が変わった。
・ 思いやりと遠慮することが違うことが分かった。
・ 障害のある方に助けが必要か尋ねる方法が分かった。
・ 配慮として、「介助者」ではなく、「本人」に話しかけるということが心に残った。

UBS証券でもアクサ生命でも、「知らなかった!」「知ることができてよかった!」というのが代表的なコメントです。「すべては知ることから始まる」という私たちの考えを伝えられたようです。

■ DIPのメッセージ

日本版DIP(Disability Inclusion Program/「障害受容講座」)は、職場であれ、学校であれ、社会のあらゆる場に、合理的配慮を通じて障害者を受け入れる姿勢さえあれば、障害者も対等な一員として持てる力を発揮できるということを伝えてゆく講座です。

障害のある人とない人には、同じ人間として共通していることも、違っていることもあります。共通していることをお互いに認識できれば、友だちや同僚になれるでしょう。違っていることをお互いに認識できれば、自然に手を貸せるようになるでしょう。私たちは、社会を構成する同じ一員として出会い、向き合う場が必要なのだと思います。。